内科Internal medicine
睡眠中に何回も呼吸が止まり、ぐっすり眠ることができない病気です。おおきないびきや起床時の頭痛、夜間の呼吸停止、日中の強い眠気などの症状があります。潜在患者は人口の2~3%(約300万人)といわれています。
英語ではSleep Apnea Syndromeとなるため、その頭文字を取りSASとも呼ばれています。
この病気の怖いところは、睡眠中に体へさまざまな負担がかかることです。その最たるものが、心臓への負担です。SASを放置すると、心臓に大きな負担を与え、冠動脈疾患や心筋梗塞、脳梗塞などの発症につながり、突然死のリスクも高まります。
また日中の眠気などのために仕事に支障をきたしたり、居眠りによる自己の発生率を高めたりするなど、社会生活に重大な悪影響を引き起こします。
しかし、治療法が確立されているため、適切に検査・治療を行えば決して恐い病気ではありません。
睡眠中に10秒以上呼吸が止まることを「無呼吸」といい、呼吸が浅くなることを「低呼吸」といいます。
SASの定義は、一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上起こるか、睡眠1時間当たりの無呼吸や低呼吸が5回以上の場合を言います。
また、睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計をAHI(無呼吸低呼吸指数)と呼び、この指数によって重症度を分類します。重症度や原因に応じた治療法が選択されます。
重症度 | 正常 | 軽症 | 中等度 | 重症 |
---|---|---|---|---|
1時間あたりの 無呼吸低呼吸回数 |
0~4回 | 5~14回 | 15~29回 | 30回以上 |
※症状がない方はまずスクリーニング検査を自費にて受けていただきます
※AHI(無呼吸低呼吸指数):1時間あたりの無呼吸低呼吸の回数
持続陽圧呼吸療法。治療として第一に選択される呼吸療法です。CPAP装置から鼻に空気を送り、閉塞した上気道をおし広げることによって、睡眠時の無呼吸をなくし、酸素不足を解消することができ、睡眠の質を向上させることができます。
CPAP療法は脳卒中の再発リスクを軽減する
脳⾎管障害を発症した患者はSASの合併率が⾼いことが知られており、アメリカの研究によるとおよそ60%の患者がAHI>10のSASを合併していたという報告があります。
脳⾎管障害を発症し、かつSASを合併する患者に対してCPAP治療を⾏った群とCPAP治療を⾏わなかった群の予後を⽐較した研究では、CPAP治療を⾏った群で5年後の死亡率が明らかに減少したことが報告されており、CPAP治療が脳⾎管障害の再発予防に⼀定の有効性があることが⽰されました。
また、SASに対するCPAP治療は⾃律神経のバランスや⾼⾎圧の是正、動脈硬化の進展を予防することで脳⾎管障害の⼀次予防に対しても効果が期待されています。
SAS(睡眠時無呼吸症候群)の治療において、生活習慣の改善が重要な一環となります。
減量や寝る姿勢の工夫、アルコールの摂取量の抑制など、日常生活で実践可能な対策があります。
また、当院では管理栄養士による栄養相談も行っており、個々の状況に応じた食事や栄養面でのサポートも提供しています。
下あごを前方に固定することで、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療に効果が期待されます。
この方法により、空気の通り道が開かれ、呼吸がスムーズになります。当院では、三宅ハロー歯科 小児歯科・矯正歯科において、個人に合ったマウスピースを作成することが可能であり、当院からの紹介状をお持ちいただければ、スムーズにご相談・治療を進めることができます。
ぜひお気軽にご相談ください。
アデノイドや扁桃の肥大が気道閉塞の原因である場合、外科手術が治療法の1つとして考慮されることがあります。
手術によってアデノイドや扁桃の一部または全体を摘出することで、気道の通り道を広げ、呼吸の問題を改善することが期待されます。
重症SASでは健常人と比べて死亡する確率は2.6倍
このことは無呼吸自体では突然死はなくても心血管系の合併症による突然死はおこりうることを示しています。
このデータではCPAP治療の効果は検討されていませんが、CPAP治療で死亡率が減少することも報告されており、SASの早期診断と正しい治療が突然死も減らすことができると考えられています。
SASでは、睡眠中に頻回に繰り返される無呼吸による低酸素や脳の覚醒反応、また胸腔内の過度の陰圧などにより交感神経系が刺激され、心拍数の増加や血圧上昇をひきおこします。
これらの長年の影響が高血圧、高脂血症、糖尿病などの動脈硬化性疾患の原因となることが指摘されています。
近年、糖尿病とSASの密接な関連がわかってきたこともあり、2008年6月国際糖尿病連合は、『2型糖尿病患者に対してはSASのスクリーニングを、SAS患者さんに対しては糖尿病およびメタボリック症候群のスクリーニングをすべきである』と勧告しています。
SAS患者さんに多い中心性肥満と、高血圧、高血糖、脂質代謝異常の4因子が集積した状態はメタボリック症候群として動脈硬化性疾患の重要で危険な病態とされていますが、SASにはメタボリック症候群が高率に合併していることがわかってきました。
SASの人が交通事故を起こす頻度はSASのない人の約7倍、一般ドライバーの約2.5倍といわれ、またSASが重症になればなるほど事故率が高くなることが報告されています。
しかし重要なことはSASを適切に治療することにより事故を起こす確率が改善し健常者と変わらなくなると言うことです。重大な事故から本人と社会全体を守るためにもSASを早期に診断し適切に治療することが望まれます。
SAS患者さんに高血圧症がよく見られる事は以前から知られていましたが、最近、無呼吸が高血圧症の原因となる事が明らかになってきました。
SAS患者さんでは、日中覚醒時に血圧が高くなるだけでなく、夜間睡眠中にも血圧が高い状態が続く事が知られています。
重症のSASに対してはCPAP療法が広く行なわれていますが、長期的なCPAP療法によってSAS患者さんの血圧が低下する事を支持する報告が多くなされています。ただ、眠気のない高血圧を合併したSAS患者さんでは降圧効果が乏しいと言われており、眠気のある患者さんの方がCPAPの降圧効果は高いようです。
SAS患者さんの生活の質(QOL)を調査した結果では、いびきは本人だけでなくベッドを共にするパートナーのQOLも障害するという事実が明らかになっています。
生活の質(QOL=Quality of Life)とは、人が人間らしく望み通りの生活を送り、人生をどれだけ幸せに感じているかを尺度としてとらえる概念のこと。たかがいびきと思って放置しておくと、知らず知らずのうちにパートナーの幸せを妨げてしまっているかもしれません。
また寝ている間のいびきや呼吸の停止は本人に自覚がないことも多いので、パートナーから指摘してあげることが大切です。パートナーのいびきが気になるという方は、一度SAS検査の受診を勧めてみてはいかがでしょうか。
朝までずっと続くいびきや、強弱のあるいびき、仰向けに寝ると大きくなるいびきがみられる場合はSASの可能性が高いので、検査を受けてみることをお勧めします。睡眠中に起こるこれらの症状は本人が気付いていないケースも多いので、できればご家族やパートナーと一緒に受診すると良いでしょう。
日本人は寝酒習慣のある人が多く、週に1回以上飲酒する人の割合は男性48%、女性18%に及ぶという報告があります。
アルコールは寝つきが良くなると感じる⼀⽅で、睡眠の後半において眠りが浅くなったり、睡眠が分断されたりするなど睡眠に対して悪影響を与えることが明らかになっています。
また、アルコールは睡眠中に上気道を広げる筋⾁の活動を抑制させてしまいます。その結果、⾆がのどに落ち込みやすくなるなどして上気道が狭窄し無呼吸が起こりやすくなってしまいます。
通常、無呼吸が起こると⾎液中の酸素濃度が低下し、それがきっかけとなり覚醒を促しますが、アルコールを摂取するとその感度が鈍くなることで覚醒までの時間が⻑くなり、無呼吸の時間も⻑くなることも知られています。
現喫煙者は⾮喫煙者に⽐べて有意にSASのリスクが高いということが、アメリカの研究により古くから⾔われています 。
因果関係は正確にはわかっていませんが、恐らくタバコの煙により⿐やのどの粘膜が慢性的な炎症を起こし、空気の通り道(上気道)がむくんでしまうためと考えられています。
脳⾎管障害とは、脳⾎管に⽣じた異常(⾎液が通わない虚⾎または出⾎)によって起こる疾患の総称です。
実は脳⾎管障害とSASには密接な関係があり、SAS患者さんと健常⼈を3年間追跡調査した研究によると、SAS患者さんは脳⾎管障害の発症および死亡が有意に多いという報告がされています
また、海外で行われた研究によると、AHI≧5の睡眠時無呼吸の方は、そうでない方と比べて、脳卒中の発症リスクが2.89倍高まることが明らかになっています。